大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所松江支部 昭和48年(ネ)71号 判決 1974年1月25日

控訴人 破産者中国製鉄株式会社

破産管財人 馬淵分也

被控訴人 株式会社鳥取銀行

右代表者代表取締役 八村信三

右訴訟代理人弁護士 上原隼三

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

(一)  控訴人

(1)  主位申立

「原判決を取消す。本件を鳥取地方裁判所米子支部へ差戻す。」との判決

(2)  予備的申立

「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し金二九九万七八一三円および内金一九万四六二〇円に対する昭和三三年四月二五日から、内金三五万六一三三円に対する同年五月一四日から、内金二四四万七〇六〇円に対する昭和三五年九月二三日から、各完済に至るまで日歩五銭の割合による金員を支払え。訴託費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決ならびに右第二項についての仮執行宣言

(二)  被控訴人

(1)  控訴人の主位的申立に対し

「本件控訴を却下する。」との判決

(2)  控訴人の予備的申立に対し

主文同旨の判決

二  主張および証拠

次のとおり付加又は変更するほかは、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

(一)  原判決二枚目表一行目から六行目までおよび三枚目表九行目から同葉裏四行目までを、当審における被控訴人の申立の撤回に基づいて削除する。

(二)  控訴代理人は、「原判決は昭和四八年九月一四日(金曜日)に鳥取地方裁判所米子支部裁判官岡田勝一郎によって言渡されたが、同裁判所においては、裁判官会議の議により、昭和四八年四月一日以降の米子支部の民事単独事件は妹尾裁判官のみが担当して月曜日および金曜日に開廷し、岡田裁判官は同支部の民事合議事件を担当して火曜および木曜日に開廷することとする旨定められているから、右判決の言渡しは違法である。また原判決の言渡しは被控訴本人も被控訴代理人も呼出すことなく非公開の法廷で行われたもので憲法八二条に違反する。」と述べた。

(三)  被控訴代理人は、「控訴人の当審における主張は争う。被控訴代理人は原判決の言渡期日に適法な呼出を受けた。」

と述べた。

理由

一  控訴人は、原判決の言渡手続が違法である旨主張するので、まずこの点について考えるに、民事訴訟法三八一条によれば、当事者は控訴審において第一審裁判所が事件につき管轄権(ただし専属管轄の場合の管轄権を除く。)を有しないことを理由に原判決の取消しを求めることはできないものとされているところ、裁判官に対する事務分配は、一の官署たる裁判所の部内における裁判権の分掌の問題であって、その訴訟制度上の意義は管轄権の問題よりさらに小であるといって差支えなく、また、少くとも本件のような判決の言渡しの事務の担当の問題に関する限り、右事務分配の定めの順守に関して裁判管轄における専属管轄の場合に比肩するような強度の公益的要請が存するとは到底考えられない。そうすると、右民事訴訟法三八一条の規定の趣旨からして、仮に原判決の言渡しに関して控訴人指摘のような事務分配の定めの違背があったとしても、これを理由に当審で原判決の取消しを求めることはできないものといわなければならない。なお開廷日の点については、原判決は米子支部における民事単独事件の開廷日であると控訴人の主張する金曜日に言渡されているのであるから、なんら違法は存しない。控訴人はさらに原判決の言渡しが当事者を呼出すことなく非公開の法廷においてなされた旨主張するが、右期日につき双方当事者に対する呼出しが適式になされたこと、右言渡しが公開の法廷でなされたことはいずれも記録上明らかである。

したがって控訴人の前記主張はすべて理由がない。

二  進んで本案について検討する。

訴外中国製鉄株式会社(以下「破産会社」という。)が昭和三三年六月二六日鳥取地方裁判所米子支部で破産を宣告され、控訴人は同日その破産管財人に選任されたこと、被控訴人は同年七月一六日右会社に対する破産債権として昭和三二年四月二二日貸付けにかかる金二〇〇万円から昭和三三年四月二四日競売代金の配当として弁済を受けた一九万四六二〇円と同年五月一三日任意弁済を受けた三五万六一三三円とを控除した残額一四四万九二四七円およびこれに対する昭和三三年四月二五日以降同年六月二五日までの日歩四銭の割合による遅延損害金三万八六四七円の債権の届出をしたことは、当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫によれば、破産会社は昭和三二年二月二六日被控訴人と元本極度額を金四〇〇万円とする手形取引契約を締結し、訴外梶野繁三郎、同梶野清二郎、同梶野恒治は右契約に基づき破産会社が被控訴人に対して負担する債務につきそれぞれ連帯保証したこと、その後破産会社は右契約に基づき被控訴人から(イ)昭和三二年四月二二日に金二〇〇万円、(ロ)同年七月六日に金二〇〇万円をそれぞれ借用し、その都度金額各二〇〇万円の約束手形を被控訴人に対して振出し、右各手形はその後数回に亘って書替えられたこと、被控訴人は右(イ)の債権について、昭和三三年四月二四日連帯保証人梶野清二郎、同梶野恒治の共有にかかる不動産の競売による配当金一九万四六二〇円の、昭和三五年五月一三日連帯保証人梶野繁三郎から任意弁済三五万六一三三円の各支払を受けたこと、被控訴人は昭和三二年九月一三日ごろ通商産業大臣との間に、同年四月一日から九月三〇日までの間の被控訴人の貸付金につき保険価格五〇〇〇万円の中小企業信用保険契約を締結したところ、前記二口の破産会社に対する貸付金の弁済が得られなかったため中小企業信用保険公庫に保険金を請求し、昭和三五年九月二二日前記(イ)の貸付金につき八四万七〇六〇円、(ロ)の貸付金につき一六〇万円の保険金の支払を受けたことが認められ、以上の認定を左右するに足りる証拠はなく、破産会社が被控訴人に対し控訴人主張のような弁済をした事実を認めるべき証拠は何ら存しない。

そうすると、被控訴人が受けた前記一九万四六二〇円と三五万六一三三円の弁済はいずれも法律上の原因を欠くものではなく、また前記保険金の支払は破産会社によってなされたものでない以上破産宣告によって何ら影響を受けるものではないから、これら金員の返還を求める控訴人の本訴請求は失当であり、これを棄却した原判決は相当である。

三  よって本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 熊佐義里 裁判官 加茂紀久男 小川英明)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例